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◇土肥けんすけ 駄々漏れ追記◇     

◎∈∞∋漫画描きの土肥けんすけの雑記やエッセイ∈∞∋◎

『せみさん』
『せみさん』        
                   
その女性が入店する少し前から、ボックス席の男女二人は話をしていたのでした。


最初私はその男女を
「ああ、学生カップルか」と気にもしてなかったのですが、ちらほら漏れ
聞こえてくる話から、そういった関係ではないことがわかりました。

ようするに・・・。
男が自分の友人と、今来ている女性を取り持とうとしているのでした。
女性のほうも悪い気はしないらしく、「考えてみる」とそれなりに色よい
返事を返していたようです。

「ああ、青春だねェ」などと、私はわりと最初はホノボノと聞いていたの
ですが―
その後が、ちょっとやりきれない展開なのでした。


話も一段落しかけたころ、二人の共通の友人である、その女性―
「せみさん(仮名)」は入店し、ボックス席へとやってきました。
どうやら、先に来ていた女性に携帯で家から呼ばれた様子です。
勉強途中で出てきたとかの会話が聞こえます。
せみさんは二人に小さい声で声をかけ、席に落ちつくとハーブティーを
頼みました。

それから三十分間。
最初の男女は、自分の恋愛体験や恋愛感について会話し、私はその会話から
「女性は、まだ元・彼ときちんと別れていない」「男性は現在フリー」
とか色々分かったのですが   ―正直そんなことはどうでもいいのです。

問題は、後から来た女性「せみさん」のこと。

ふと気づきました。三十分の間、彼女は何も喋っていないのです。
それどころか、冷静に考えてみれば今回話題になっている「くっつけ話」
と せみさんは「何の関係もない」のでした。 なんなんだこれは。

私は何か異様なものを感じ、視線を上げ、初めて三人をきちんと観察して
みました。

ああ・・・・。

男は、ショートで髪立てた、目鼻立ちが少しぼんやりとしたそれなりの顔で
半そでのカットソー着た普通の男。

最初からいた女性。
さらさらショートカット。目鼻立ちの綺麗な可愛い系の女性。話からして、21歳。
服なんかも、(私はよくわからんが)質素だけど似合った長袖セーターで
首にはワンポイントのペンダント。
つまり、あれです。可愛い子。

そして、「せみさん(仮名」。
髪の量多く、ばらばら天パでオデコを出して後ろにひっつめている。
眉毛太く、目鼻立ちは・・・おおざっぱ。
服はデニム系のよれよれ・・・。
つまり・・・・。その―。です。

で、「せみさん」の手元をと見ると、実はまだ彼女はメニューを読んでいたの
でした。
いや、注文したハーブティーは来ているようなのですが、話に入れないのか
入らないのか、とにかくどうしようもないので、メニューを読んでいるという
感じでした。

その後も(男「一人だと寂しいよね」(女「昔付き合ってたカレシが」という
話が続く中、せみさんは『紙ナプキンで、手品ごっこ』『ハーブティーの
茎をいぢる』等で時間を潰していましたが、ほとんど話しかけられる事は
ありませんでした。その、わずか話しかけられることというのも
(女「好きな人いる?」(男「恋愛もいいよ~」とかばっかりで、どうやら
そういうのには答えたくないらしく
「興味ないから・・。」「めんどくさいの・・」とせみさんは小さい声で
答えただけでした。

せみさんは男女二人が振る他の話題にも(明らかに仕方なく)生返事を
返すだけで、ジグソーパズルや映画や小説の話以外はほとんど黙ったまま
でした。
そんな状態が、その後2時間ほど続いたのです。

『ああいう時って、視界が白くて狭くてボンヤリしてくるんだよな』
『家に帰ってすさまじく情けない気分になるんだ。テレビつけたまま出かけてれば
いいけどな。辛さが薄れるし』
なんともやるせない感情の中で、私はそんなことを思っていたのでした。

さらに時がたち、私が風邪が理由だけではない息苦しさで眩暈がしてくるころ―
「じゃ、そろそろ」・・と、男性が促し、三人は席を立ったのでした。
その時せみさんが明らかに
「解放された・・」
という顔をしたのを私は忘れられません。

三人が帰った後残ったのは、紙ゴミや皿で散らかされた男女二人の席と
まるで誰もいなかったように片付いた せみさんの席でした。

私は家に帰ってから、せみさんが男女の話題に乗っていった数少ないテーマ
「映画」について、小さな声で
「好きな映画・・」
だと言っていた作品のことを思い出しました。私は知らない映画だった
ので検索して調べてみたのですが・・・。



      それは
        ―恋愛映画でした。
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