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◇土肥けんすけ 駄々漏れ追記◇     

◎∈∞∋漫画描きの土肥けんすけの雑記やエッセイ∈∞∋◎

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短編小説『抜け殻』 第8回(全8回)
←第7回へ

などと。

本当にどうでもよい事を話しながら部屋の中を―。
布団の周りを―。
並んで追い越して、追い越されてグルグル廻りながら
僕達は話し続けた。

ああ、バタバタうるさいな。寝てられないだろ。
―とは、真ん中の布団からはもちろん言われない。
そういうことではないのだ。
としても、残像のような狭間のようなものがそこから発して、
こちらの脳内に照り返しているのがはっきりとわかる。

それはやはり思った通り、以前に足繁く訪れていた店が
潰れ、違う店が開店した時にそこの前を再び訪れると
どうしても「前の店の残像が数十%混ざる」というのに似て
いる気がした。

存在しないのは分かっている。
けれど。・・まだダメなのだ。
思考を自動選択すると、真っ先にそれは立つ。
こういうのもフラッシュバックって言うのかな・・・。
激しい記憶でなくてもこういう事は起きるものなのだろう。

だからこそ僕らは事柄の周辺を廻る。触ることなく。出来る
だけ直接的な新たな情報を五感に与えずに。そういう優先
順位を書き換えて消すために。

布団の膨らみ。それは、僕達の記憶の残り香であり残像
なのだ。
それゆえに消す。だが、それゆえに直接的に消したという
記憶をつけてはならない。でないと、記憶は順路を繋げ
過去の記憶を想起させてしまう。

結果だけ示されなければいけない。
我々が触れたという記憶がない形で更新され、前の状態は
上書きされ、消えていかなければならないのだ・・・。

僕らは廻った。いくつかの意味で距離を置いて。
記憶を、過去を、存在を更新しているのを自覚しない
程度に。少しずつ少しずつ。

「そろそろかぁ」と、坂口が顎で布団を指し示す。
・・・・。僕は頭がくらくらしてそれどころではなく、脳に言葉が
染みこむのに数秒要したが、やがて坂口の言葉の先に気づく。
ああ、布団か。

少しずつ。
掛け布団が変化している気がする。僕らが歩く振動で。
少しずつ、彼の入っていた布団の形が―。
振動で、重力で。僕達の記憶で。
しかし、あえて視線を他所へ流す。

記憶の順路をつけないように視界から外してるソレは、
けれども目の端の隅にボヤッとした所で認識されており
少しばかり潰れかけているような気もした。

他人から見たら、関係ない人から見たら、ただ単に布団が
潰れていくだけ。それはそう。
でも、僕らにとってそれは―

少しずつ彼が去っていくということだった。

グルグル廻る僕ら。
こんなことしていたら、こんなことしていたという記憶が長期
記憶に焼きつくだろう。そう気づく。

そう思って、坂口に言おうとしたが、その坂口は
「がばらがばらがばら」
とか変な音だか声高だかを出しているので言うのをやめた。
考えないようにしているのだ。
いや、こちらも口に出してるのは
へべゃらはぃ、ふむにゅくるぅいい
とか声だか息だかわからない状態ではあったのだけれど。
考えないようにしようという以前に、考えられなくなりつつある。

―布団の空間はその原型を崩し始めている。
彼の形をした何も無い穴は、本当に何も無くなりつつあり、
僕達の記憶の中へと、何も無かったということを記憶させる
ことで居所を作り出し始めていた。

どの段階から、穴が彼の空間でなくなったのか・・。
存在がそれでなくなる瞬間。言わば存在のモーフィングは
受け取る側個人によるし、それどころかその人の中でも揺れ
動くものなのだろう。

僕ら二人の彼の存在認識の最大公約数がどれくらいだったのか。
わけのわからない声で布団の周りをのたうち周回している時、
彼の存在がどこの時点で認識不能になったのか。
僕らにも差異があるだろう。
最初から違っているし、今も違うし、最後まで違うだろう。
同じ存在を認識していても他者が存在するだけその数は
存在する。少なく見ても―。

穴が崩れ、下がっていく。しぼんでいく。
枕の崩れも少しずつ復元していく。シワが消え、のっぺらな
布地へと―。そして、振動で彼の存在が傾けた目覚まし
時計が重力の存在へと鞍替えする。
コトリと。

ただの部屋になっていく。
誰もいない部屋になっていく。
存在から影響を脱していく『者・モノ・物』に
なっていく。

気持ち悪くてね。

この気持ち悪さが、三半規管の問題から来るものなのか
存在の希薄さを感じ、その同一性からくるおびえからの
混濁感ゆえなのか・・。

どちらにしても。
どちらにしても、坂口をも一つの部屋の装飾として認識した
意識の中で、どこかへと潰れていく感じがして―
ただの布団になったそれを視線が捕らえることはもはやなく―

僕は、自分の中身が内側に内側にとひしゃげるような感覚に
もはや、嘔吐しそうだった。

                                    終
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