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◇土肥けんすけ 駄々漏れ追記◇     

◎∈∞∋漫画描きの土肥けんすけの雑記やエッセイ∈∞∋◎

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短編小説『抜け殻』 第6回(全8回)
←第5回へ

物には触れられないだろう。電燈ぐらいは仕方ないにせよ。
机の物、洗い場・・そして、当然布団もダメと考えられる。
でも、なんとかしたい。

ここをこのまま立ち去れば、いずれもう一度来るとしても―
たぶん部屋は奇麗にされており、それはもはやゆっくりと
更新された結果の彼の存在消失ではなく、スイッチを切った
ように「ぶつり」と終わることになる。
そういうことはままあるし、仕方ない場合はあるだろう。
が、そうしないで済む可能性があるのに何もしないのは・・・。
何とも心の座り心地が悪いもの。

彼がこちらの内から退場するにしても、退場の流れ・・と
いうか使いたくない言葉だが「儀式」は必要なのだと思う。
もちろん、僕達のために。

「酒飲むのはダメや。散らかせへん」
坂口は壁に寄りかかりながら、何気に布団を見た。正確に
言えば布団のふくらみを見ていた。僕も、うろうろしながら
布団を見た。

今の僕達にとって、一番の彼であるものとは何か。そして、
それにしずしず退場していただくのはどうすれば良いのか。

僕も坂口の視線先を見る。
何も無い布団の穴がそこにある。いや穴だから何も無いのか。
何も無い穴がある。
眠っているのかと思われるくらい静かにしている坂口。部屋の
中には自分のうろつく足音が聞こえ、僕自身には建物の沈み、
フローリングの沈みが感じられる。

あるかないかの風が室内に行き戻り、部屋の隅に落ちていた
レジ袋をそよがせてわずかに持ち上げる。
外からは、意外に遠くからでも聞こえるらしい高架の上を走る
電車の音が道路上を伝い走り、ここまでたどり着いていた。

「ああ」と坂口がつぶやく。そして、少し顔を上げる。
何が、ああ・・なのだろう。そう思ったが聞かなかった。

坂口は、もたれた体を軽く反動で起こし、僕を見た。
部屋をうろうろしている僕との間合いを計るように軽く視線を
泳がせた。
僕は、いつの間にかそうする義務のようにうろうろしている。
"幸い"、部屋の中央に位置する布団の周りは、物が少ない
こともあり狭いながらも人が歩ける空間が存在していた。

いつの間にか「形」も出来ている。
布団の長い縦を小さく五歩歩いたら、ゆっくりかかとを中心に
半回転。
次の短い横を小さく三歩。歩幅は調整しつつ。そして、また
かかとでかるく半回転。反対の縦縁を戻ってくる。その繰り返し。

脳の中に「こうなのだ」という回路が出来ると途中から意味が
分からなくなることがある。
同じ漢字を数百回書いてるうちに、漢字としての意味が消失し
その形が新たに記憶され、それを再現することが目的になり
本来の意味が分からなくなる。それなのか―

坂口はそんな僕の歩幅と位置を目測すると、ゆっくりとこちらの
後ろをついて歩を進め始めた。

僕らは、彼の布団の周りを歩き始めていた。

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