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◇土肥けんすけ 駄々漏れ追記◇     

◎∈∞∋漫画描きの土肥けんすけの雑記やエッセイ∈∞∋◎

短編小説『抜け殻』 第3回(全8回)
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繰り返すが、もちろん中には誰もいない。
ただ、誰にも経験があると思うが、重い布団からそーーっと
体を外に出すと、まるでサナギのように布団がそのままの
形を保つことがある。その状態なのだ。

抜け殻か―。
僕は小さく口にする。

「・・・。そやな。つまりは、あれや。これはあいつの形か」
その坂口の言葉は、己自身の疑問に自答したのか僕に答えたのか。
彼は少し大柄だった。だから布団の抜け殻の空間も大きかった。
横幅も高さも、足の方の膨らみも長い気がする。

それにしても見事に形になっているなぁ。寝相ががよかったのだな。
僕など何度も寝返りを打つせいか、毛布がどんどん布団外へと国外
退去してしまう。
それに比べれば、彼のはメイン布団のすそ横にベージュ色のふもふも
した毛布がちらりと見えはするものの、そのほとんどが内側に埋没して
いる。また、枕などもきちんと布団の横と縦それぞれに並行直角に
置かれていた。頭の形のまま沈み込んだソバ殻枕は、彼の頭の重さを
残し置かれている。

よく見ると、目覚ましが枕に寄りかかるように倒れかけている。
あそこに手をかけて止めたのだろう、文字盤がこちらから見える所から
察すると、時間を見ることなく起き上がったのかもしれない。
そうとも限らないが。

「オカルトには興味ないんやけどな―」と坂口が唇をチロと湿らせ開き、
自分の声を確かめ聞くように慎重に、しかし確信をもつように言ったのは、
僕が同じ様なことを考えていると感じ取ったからだろう。
「なんや・・、いるみたいやなぁ」

ああ、ほんとに。
『出る』とか『出ない』とか言う話ではない。そういうことではなく。
ロジックというかメタ要素の混乱と言うか。あえて言えば、我々の彼に
ついての人生退去情報量増減バランスがここに来ることによって
歪められてしまったということだ。

今回の件につき僕らが知っているは、どちらにしろ単なる情報だった。
量自体も少ない。そんなものは極端な話、テレビをつけた途端に目に入る
見も知らぬニュース素材の人間達の事柄と比べても、情報としても感情
移入としてもどっこい程度のものだ。
勝ち目は五分という所。いや、勝ち負けでは無いか。
いや、やはりそうなのか?

ともかく『いる』『いない』という点における存在の住み分けで言うなら、
ここに来るまでは暫定で『いない』というカテゴリに置かれた彼が、ここで
付加された情報量により『いる』のカテゴリにスリッパの先端程度は
戻り込んでしまった感があるのは―・・これは仕方の無いことなのだろう
と思いたい。

それとしても、どうしよう。
そう坂口に言うと「どうするて」と聞き返された。あちらも困惑しているらしい。
お互いに何も考えずに入ってしまい、相手がこの先を考えていると
思っていたのだろう。
顔を見合わせ、力なく重力に任せて顔の筋肉を若干弛緩させるしかない。

ここに来たのは、ただいないのを確かめたいそれだけだったのだから
仕方ない。
ああ、いない。なるほどそうなのか。納得納得。情報どおり。彼は
いないのだ。後はドアを閉めておしまい。
だってそういうものだろう。
外出の時などに一度外に出たものの、ガスの元栓が気になってもう
一度ドアを開けるようなものだ。ただの確認。
『ああ。やっぱり締まっていた』という―

でも。今回は何を間違ったか、確認がうまくいかなかったのである。

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