◇土肥けんすけ 駄々漏れ追記◇     

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小説コーナーは、しばらくお休み。
◇最初はそうしようと思ってたわけではないのです
けれど。
気がつくとアップ日が規則的になっていたので・・。
一度規則性が出来るとなかなか気になるのですよ。

ここはしばらくお休みです。

次回作は数ヵ月後の予定・・。
内容は「某なつかし児童マンガパロ短編小説」か
「ドタバタありがちファンタジー中編小説」のどちらか。
たぶん、前者ですかね。

他にも書きかけが三つ四つ・・。まぁ、ゆっくり。
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短編小説『抜け殻』 第8回(全8回)
←第7回へ

などと。

本当にどうでもよい事を話しながら部屋の中を―。
布団の周りを―。
並んで追い越して、追い越されてグルグル廻りながら
僕達は話し続けた。

ああ、バタバタうるさいな。寝てられないだろ。
―とは、真ん中の布団からはもちろん言われない。
そういうことではないのだ。
としても、残像のような狭間のようなものがそこから発して、
こちらの脳内に照り返しているのがはっきりとわかる。

それはやはり思った通り、以前に足繁く訪れていた店が
潰れ、違う店が開店した時にそこの前を再び訪れると
どうしても「前の店の残像が数十%混ざる」というのに似て
いる気がした。

存在しないのは分かっている。
けれど。・・まだダメなのだ。
思考を自動選択すると、真っ先にそれは立つ。
こういうのもフラッシュバックって言うのかな・・・。
激しい記憶でなくてもこういう事は起きるものなのだろう。

だからこそ僕らは事柄の周辺を廻る。触ることなく。出来る
だけ直接的な新たな情報を五感に与えずに。そういう優先
順位を書き換えて消すために。

布団の膨らみ。それは、僕達の記憶の残り香であり残像
なのだ。
それゆえに消す。だが、それゆえに直接的に消したという
記憶をつけてはならない。でないと、記憶は順路を繋げ
過去の記憶を想起させてしまう。

結果だけ示されなければいけない。
我々が触れたという記憶がない形で更新され、前の状態は
上書きされ、消えていかなければならないのだ・・・。

僕らは廻った。いくつかの意味で距離を置いて。
記憶を、過去を、存在を更新しているのを自覚しない
程度に。少しずつ少しずつ。

「そろそろかぁ」と、坂口が顎で布団を指し示す。
・・・・。僕は頭がくらくらしてそれどころではなく、脳に言葉が
染みこむのに数秒要したが、やがて坂口の言葉の先に気づく。
ああ、布団か。

少しずつ。
掛け布団が変化している気がする。僕らが歩く振動で。
少しずつ、彼の入っていた布団の形が―。
振動で、重力で。僕達の記憶で。
しかし、あえて視線を他所へ流す。

記憶の順路をつけないように視界から外してるソレは、
けれども目の端の隅にボヤッとした所で認識されており
少しばかり潰れかけているような気もした。

他人から見たら、関係ない人から見たら、ただ単に布団が
潰れていくだけ。それはそう。
でも、僕らにとってそれは―

少しずつ彼が去っていくということだった。

グルグル廻る僕ら。
こんなことしていたら、こんなことしていたという記憶が長期
記憶に焼きつくだろう。そう気づく。

そう思って、坂口に言おうとしたが、その坂口は
「がばらがばらがばら」
とか変な音だか声高だかを出しているので言うのをやめた。
考えないようにしているのだ。
いや、こちらも口に出してるのは
へべゃらはぃ、ふむにゅくるぅいい
とか声だか息だかわからない状態ではあったのだけれど。
考えないようにしようという以前に、考えられなくなりつつある。

―布団の空間はその原型を崩し始めている。
彼の形をした何も無い穴は、本当に何も無くなりつつあり、
僕達の記憶の中へと、何も無かったということを記憶させる
ことで居所を作り出し始めていた。

どの段階から、穴が彼の空間でなくなったのか・・。
存在がそれでなくなる瞬間。言わば存在のモーフィングは
受け取る側個人によるし、それどころかその人の中でも揺れ
動くものなのだろう。

僕ら二人の彼の存在認識の最大公約数がどれくらいだったのか。
わけのわからない声で布団の周りをのたうち周回している時、
彼の存在がどこの時点で認識不能になったのか。
僕らにも差異があるだろう。
最初から違っているし、今も違うし、最後まで違うだろう。
同じ存在を認識していても他者が存在するだけその数は
存在する。少なく見ても―。

穴が崩れ、下がっていく。しぼんでいく。
枕の崩れも少しずつ復元していく。シワが消え、のっぺらな
布地へと―。そして、振動で彼の存在が傾けた目覚まし
時計が重力の存在へと鞍替えする。
コトリと。

ただの部屋になっていく。
誰もいない部屋になっていく。
存在から影響を脱していく『者・モノ・物』に
なっていく。

気持ち悪くてね。

この気持ち悪さが、三半規管の問題から来るものなのか
存在の希薄さを感じ、その同一性からくるおびえからの
混濁感ゆえなのか・・。

どちらにしても。
どちらにしても、坂口をも一つの部屋の装飾として認識した
意識の中で、どこかへと潰れていく感じがして―
ただの布団になったそれを視線が捕らえることはもはやなく―

僕は、自分の中身が内側に内側にとひしゃげるような感覚に
もはや、嘔吐しそうだった。

                                    終
短編小説『抜け殻』 第7回(全8回)
←第6回へ

不思議なもので。

核もなく、ただただ円を描いて廻るのは抵抗があったとしても
中心があれば、そういうのに不自然さを感じない場合もある。

廻る際に中心がなければどうしても外側を見ることになる。
トースターがテーブルの隅の目立つところ・・あるいは
好きな色合いで置いてあれば―、好きな曲線の感じでもいい。
好きな曲線というのはある。
―あれば、一回転するたびにそれを意識して見ることになる
だろう。

消えて名を忘れ、出て名を思い出し、それの数を重ね数える・・。
そんな風に、トースターが数を重ねていくうちに
僕の好きな曲線のトースターが10も20もあるわけがない
と、いずれ人は気づく。

対して。
視界の中心に同じものがあり続ければ、脳は必ずしも移動の
否定とは取らない。
トースターは視界に入り続ける。それは確かに直線移動なら
そんなに長くトースターが視界に入ることはありえないが、見え
隠れしないために認識の回数更新は行われず、ために現れる
度の名づけも行われない。
つまり、不自然さを考えるきっかけが刻々と失われるということ。
一つは一つなのだ。

とはいえ、移動の否定ではないが肯定でもなかったりもする。
いつまでも同じ直線が見えている高速道路で、わざとカーブに
変化をつけて「移動しているのだ」と思い出させるのには、
ボーッとすることによる事故を防ぐという意味がある。
その意味で、厳密には移動の肯定と見るよりも現実との乖離に
よる認識力の低下と考えた方が妥当なのだろう。

気がつけば。ゆっくりと。
坂口も、僕の後を追うように布団の周りを追って歩き始めていた。
僕が横でグルグル廻ってるのは大変鬱陶しいだろうから、
なんとなくそうなったのだろう・・と思った。
おい―
と言いかけるが、目を合わせた途端に坂口は首を振った。
それを僕は―「言うな」と受け止めた。

何を?何を言ってはならない?

この流れで言ってしまっては、出来なくなることがある。
そういうこと・・そういうこと?

考え付いて思考がこね回され、まとまってしまうのが早すぎると、
それはどこかの段階で分かった上でやっていることになり・・・
後々問題だ。いや、本来はここまで考え付いてしまうのもまずい
のかもしれないが、自分でもどう問題なのかの思考の塊が出来て
いない以上、深く追及されはしないだろう。

誰から・・だ?
いや、なんにしても考えずに。

考えずに・・・・。
狭い道幅の信号で、他の人が信号無視してトカトカ渡ると、さて
自分はと悩む。
正しさとカッコつけと。小学生とか横にいると、尚更。
あるよな、そういうこと。

と。
どうでもよい事を口に出して、布団の周りを廻ることにした。
どこから口にしていたのか。
頭蓋を揺らした、自分の声帯によるくぐもった音の短期記憶も
実に怪しい。これでいい。そんなことを考えていれば、それ以外の
ことに関して思考が深まらない。

そういうこちらに対して、すぐに察したのだろう坂口も無意味で
適当な、へろ球を投げ返す。そして僕も。
「コンビニ弁当は、コロッケがカスカスなんや。ばすばすする。」
『全国』の天気予報って、世界全部のことだと子供の頃思ってた。
・・いや、ほんとは数年前まで。
「1000円食べると割引券出すファミレスで、せっかくだから1000円
以上食べても、実は有効になる五回分は貯まらず期間終わる」

おまえ、食べ物のことばかりだなぁ。
「あっおまえ。・・・ああ、早い」
え?
「後一つネタ振りしてからでないと、食べ物に対するこだわり
ネタとしては成立してへん」
そういうものか。
「認めるんや。駄洒落は堕ちたる天使の芸術や」
そ、そう・・。

第8回へ→
短編小説『抜け殻』 第6回(全8回)
←第5回へ

物には触れられないだろう。電燈ぐらいは仕方ないにせよ。
机の物、洗い場・・そして、当然布団もダメと考えられる。
でも、なんとかしたい。

ここをこのまま立ち去れば、いずれもう一度来るとしても―
たぶん部屋は奇麗にされており、それはもはやゆっくりと
更新された結果の彼の存在消失ではなく、スイッチを切った
ように「ぶつり」と終わることになる。
そういうことはままあるし、仕方ない場合はあるだろう。
が、そうしないで済む可能性があるのに何もしないのは・・・。
何とも心の座り心地が悪いもの。

彼がこちらの内から退場するにしても、退場の流れ・・と
いうか使いたくない言葉だが「儀式」は必要なのだと思う。
もちろん、僕達のために。

「酒飲むのはダメや。散らかせへん」
坂口は壁に寄りかかりながら、何気に布団を見た。正確に
言えば布団のふくらみを見ていた。僕も、うろうろしながら
布団を見た。

今の僕達にとって、一番の彼であるものとは何か。そして、
それにしずしず退場していただくのはどうすれば良いのか。

僕も坂口の視線先を見る。
何も無い布団の穴がそこにある。いや穴だから何も無いのか。
何も無い穴がある。
眠っているのかと思われるくらい静かにしている坂口。部屋の
中には自分のうろつく足音が聞こえ、僕自身には建物の沈み、
フローリングの沈みが感じられる。

あるかないかの風が室内に行き戻り、部屋の隅に落ちていた
レジ袋をそよがせてわずかに持ち上げる。
外からは、意外に遠くからでも聞こえるらしい高架の上を走る
電車の音が道路上を伝い走り、ここまでたどり着いていた。

「ああ」と坂口がつぶやく。そして、少し顔を上げる。
何が、ああ・・なのだろう。そう思ったが聞かなかった。

坂口は、もたれた体を軽く反動で起こし、僕を見た。
部屋をうろうろしている僕との間合いを計るように軽く視線を
泳がせた。
僕は、いつの間にかそうする義務のようにうろうろしている。
"幸い"、部屋の中央に位置する布団の周りは、物が少ない
こともあり狭いながらも人が歩ける空間が存在していた。

いつの間にか「形」も出来ている。
布団の長い縦を小さく五歩歩いたら、ゆっくりかかとを中心に
半回転。
次の短い横を小さく三歩。歩幅は調整しつつ。そして、また
かかとでかるく半回転。反対の縦縁を戻ってくる。その繰り返し。

脳の中に「こうなのだ」という回路が出来ると途中から意味が
分からなくなることがある。
同じ漢字を数百回書いてるうちに、漢字としての意味が消失し
その形が新たに記憶され、それを再現することが目的になり
本来の意味が分からなくなる。それなのか―

坂口はそんな僕の歩幅と位置を目測すると、ゆっくりとこちらの
後ろをついて歩を進め始めた。

僕らは、彼の布団の周りを歩き始めていた。

第7回へ→
短編小説『抜け殻』 第5回(全8回)
←第4回へ

すると、どうなるか。
僕は部屋の中をうろうろし始める。
にしり・・。わずかに床がたわむ。

部屋をいじるのはまずいよな。
「まぁ、普通にアレしたんやし。別に後でおかしなことには
ならんとは思うけどな。―いや、なるか・・な?」
なるとしたら、入った時点でまずいだろう。
「事情がわからへんから友人が部屋に入るなんてなぁ、自然
やろ。それくらいでとやかく言われる筋無いわ」
ま、それもそうだ。
「けど、こっからはまずいなぁ」
なんで。
「こうやって気づいちゃたやんか。後で聞かれた時、分かっ
てていぢった、言われる」
あ。なるほど。それはまぁ、もっともだった。

で、どうしよう。
「さぁ、どうしよか・・な」
そこで僕らは、改めて立ち尽くすのだった。

閉められたカーテンの外から、硬く小さい棒を小刻みに、リズム
的にアスファルトに打つ音が流れていった。
ヒールの音って、そうと知らない地域の人が聞いたら異常な
危険音だよな・・とか思う。

思いを引き戻す。
部屋に入ったのは仕方ない。実際に、色々気が廻らずに、ただ
ただ来てしまい、入っただけなのだ。よくあることだ。しかし坂口の
言うとおり、気づいた以上は部屋の中を弄りまわすことは出来
ない。

あれ・・。
いや、そもそも弄り回しに来たのではないだろ。
「そうなんや。けど。じゃオレら何しに来たんか、いうことになる」
ん?ん?何しに来た?何しに来た・・。た・・確かめに来た。

だって、ここしかないから。

でも、実際はここで確かめることなど無い。
いないのはわかってたし、こことは関係ないことでそうなった
こともわかってる。遠くでそうなった彼の件に関してここから
発信することはないし、ここに還元されることも―、またない。

「そうや。確かめる・・いうんは、やからそれはちゃうんや。」
でも、僕らはここにいる。
「なあんも、確かめられへんことを確認に来たんやろう。
―安心したい・・とは違うか。いや、そう言い換えてもえぇかな。
わかっていても、せずにはな・・。。まぁ、ドアの鍵締めた後に、
も一度ガスの元栓締めに家に入るようなものやろか?」
それは、さっき僕が思ったことでもあった。

そうか。そういうことか。
心の下準備なしに、いきなり亡くなりましたという、平坦な固い
壁のような情報を勝手に押し付けられるのに納得できず、
凹凸があったり徐々に染み込んでくる接触をして欲しかった
のかもしれない。そんなようなことを、僕はボソボソと坂口に
言った。

「金魚な。」
と突然なことを坂口は言い出す。どこかあらぬ方に向かう声が
青っぽい蛍光灯の中で少し涼しくも漂う。
「夜店の金魚はな。家に持ち帰ってそのまんま水槽に流し
込むと水温の差で環境に適応できなくてショック死してしまう
ことがあるそうや」
・・・・・。
「人もな。人も、いきなりそういう変化与えられたら、なんか心が
ショック症状起こすんやないか。やから、そうならんよう本能
的に水温を合わせようと、状況をちびっとずつ変化させようとする
のかもしれんな。・・そう。安全装置?」
後で・・・。他人にその説明で通るかな。
「そやかて、事実やからしゃあない。水を慣らそうとしてたとしか
言いようが無い」
と、なると。ここからはどこまで許されるかだなぁ。
「ああ。んーー・・んん。どこまで許されるかや。」

何がだ、とは聞かなかった。なんとなくわかった。
気がつくと、そんなことを黙考しながら―

僕は、また部屋をゆっくりうろうろし始めていた。

第6回へ→
短編小説『抜け殻』 第4回(全8回)
←第3回へ

本人がいなくてもいないことにならなかったのだ。ドアを閉めた
としても、内側から
「いや、いるから。いないというのは・・それって何をもって?」
と、存在の声がボソボソポソポソ漏れてくるのだ。それに対する
「いや、君いないから。」
との言い返しは、否定した当人さえ納得出来てないため、説得
力を持ち得ない。

存在の宣言について・・。
その人がその人であるというのを他人が認識するのは、本人が
「そうである」と宣言するだけではだめなのだろう。
様々な極・周辺のモノ物者・・、服や髪型、生活品、発言、他人
からの当人情報、それらが寄り集まって輪郭を固め、結果として
出来る認識の空間、皮ではない、しかしサナギの中身ではない、
サナギと内側存在の狭間に生じるものこそが
「その人である」ということの実体なのだ。

それはつまり逆に言えば
「たかが本人がいないくらいでは、どうしようもなくその人は
存在してしまう」ということでもあるのだろう。

結局の所。他人と、感情感覚を完全に融合させることは出来ない
のであり、ゆえにこそ約束事の更新の積み重ねの中で我々は
「他者」を認識し生きている。
自分以外の人が、単に自分以外の存在ということではなくて、
突出して、あるいは平凡にぽっこり独立した人間であるという
確認が日々認識され構築更新され続けていく。

いや、他人だけではない。己自身だって、実際はそうだ。髪の
長い人が自分と認識しきれずに髪の先を電車のドアに挟んだり
することはままあるものだ。まだ、その部分はうまく自分になって
いないというのも一因だろう。

こんなことはよくあることで、ジュースを飲むつもりで口をつけたら、
実は牛乳。でも一瞬舌が「牛乳を待っていたのに」という抗議の
反応と共に牛乳の味の幻想を脳が見てしまう。
また、潰れた店が新しくなった時に前の店がダブって見える現象。
止まったエスカレーターで体がぐらつく例の奴。
いくらでもある。

これほどまでにあやふやな世界の中、我々は漂っている。

つまり、我々の心体は単純停止した現実ではなく、多角・流動的な
たゆまぬ内外の更新の中で生きている。
いや、その流動こそが現実の正体なのかもしれない。

その意味で・・。
やはり、あまりに彼はまだここに居過ぎる。
しかし、だとしてもそれは―

しばらくしてから、まず僕の方が口を開いた。
彼さ。親兄弟いたっけ。
坂口は一瞬考え
「・・・。いやぁ。もう、いてへん言うてた思う。親戚くらいなら、いる
思うけどな。そぉいう歳や、オレら」
恋人は―、と口にしそうになって、いたら僕らとつるんで
うろうろしたり泊まったりしてないかと気づいて苦笑した。
笑ってる場合じゃないんだけど。

第5回へ→
短編小説『抜け殻』 第3回(全8回)
←第2回へ

繰り返すが、もちろん中には誰もいない。
ただ、誰にも経験があると思うが、重い布団からそーーっと
体を外に出すと、まるでサナギのように布団がそのままの
形を保つことがある。その状態なのだ。

抜け殻か―。
僕は小さく口にする。

「・・・。そやな。つまりは、あれや。これはあいつの形か」
その坂口の言葉は、己自身の疑問に自答したのか僕に答えたのか。
彼は少し大柄だった。だから布団の抜け殻の空間も大きかった。
横幅も高さも、足の方の膨らみも長い気がする。

それにしても見事に形になっているなぁ。寝相ががよかったのだな。
僕など何度も寝返りを打つせいか、毛布がどんどん布団外へと国外
退去してしまう。
それに比べれば、彼のはメイン布団のすそ横にベージュ色のふもふも
した毛布がちらりと見えはするものの、そのほとんどが内側に埋没して
いる。また、枕などもきちんと布団の横と縦それぞれに並行直角に
置かれていた。頭の形のまま沈み込んだソバ殻枕は、彼の頭の重さを
残し置かれている。

よく見ると、目覚ましが枕に寄りかかるように倒れかけている。
あそこに手をかけて止めたのだろう、文字盤がこちらから見える所から
察すると、時間を見ることなく起き上がったのかもしれない。
そうとも限らないが。

「オカルトには興味ないんやけどな―」と坂口が唇をチロと湿らせ開き、
自分の声を確かめ聞くように慎重に、しかし確信をもつように言ったのは、
僕が同じ様なことを考えていると感じ取ったからだろう。
「なんや・・、いるみたいやなぁ」

ああ、ほんとに。
『出る』とか『出ない』とか言う話ではない。そういうことではなく。
ロジックというかメタ要素の混乱と言うか。あえて言えば、我々の彼に
ついての人生退去情報量増減バランスがここに来ることによって
歪められてしまったということだ。

今回の件につき僕らが知っているは、どちらにしろ単なる情報だった。
量自体も少ない。そんなものは極端な話、テレビをつけた途端に目に入る
見も知らぬニュース素材の人間達の事柄と比べても、情報としても感情
移入としてもどっこい程度のものだ。
勝ち目は五分という所。いや、勝ち負けでは無いか。
いや、やはりそうなのか?

ともかく『いる』『いない』という点における存在の住み分けで言うなら、
ここに来るまでは暫定で『いない』というカテゴリに置かれた彼が、ここで
付加された情報量により『いる』のカテゴリにスリッパの先端程度は
戻り込んでしまった感があるのは―・・これは仕方の無いことなのだろう
と思いたい。

それとしても、どうしよう。
そう坂口に言うと「どうするて」と聞き返された。あちらも困惑しているらしい。
お互いに何も考えずに入ってしまい、相手がこの先を考えていると
思っていたのだろう。
顔を見合わせ、力なく重力に任せて顔の筋肉を若干弛緩させるしかない。

ここに来たのは、ただいないのを確かめたいそれだけだったのだから
仕方ない。
ああ、いない。なるほどそうなのか。納得納得。情報どおり。彼は
いないのだ。後はドアを閉めておしまい。
だってそういうものだろう。
外出の時などに一度外に出たものの、ガスの元栓が気になってもう
一度ドアを開けるようなものだ。ただの確認。
『ああ。やっぱり締まっていた』という―

でも。今回は何を間違ったか、確認がうまくいかなかったのである。

第4回へ→
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